"(略)
黒などというのはさんざん着つくしたあげくにたどりつく色であって、安全圏の黒というのはスリルがない。何も好んで悲しい黒など着ることはない。
何色を着ようと個人の勝手であるが、黒を着るにはそれなりの覚悟とスタイルがいる。黒というのは総てを否定した上で成り立っている色なのであるから、レストランなどへ行ってもこうありたい。
(略)
満員だとことわられたら、それも黒い服の宿命なのであると思い、次のレストランをさがす。黒はアウト・サイダーの象徴なのであるからこれはしようがない。
(略)
このお角ちがいこそが、黒い服なのである。人生にお角をちがえてしまった人が着るとほんとうに黒は似合う。黒が黒でなくなってしまうかのようだと思う。服の黒より、自分の人生の方が黒いのであるから。"